Childhood's End

映画と本の感想など

『アウトロー・ワンダーランド』0巻、1巻を読んで

  

 

『アウトロー・ワンダーランド』特設サイト | 電撃G's magazine.com

詰んだニホンの新生活!!
21世紀の家なき子たちのサバイバルノベル!!

2020年の東京オリンピックから数十年、高福祉社会だった日本は、
弱者を救う意思を手放し、路上生活者は激増。
社会現象となっていた。

若きネットカフェ難民セイガクは、埼玉のとある街に流れ着き、
アウトロー」と呼ばれる新手の路上生活者たちと出会う。
天才スリ師、DQNハンター、元教祖……。
様々な職業のアウトローを仲間に、路上の世界ならではのクエストに挑むが――。

 

●世界認識とレイヤー

 田中ロミオさん原案のシリーズがとうとう開始。福祉国家として破綻した日本で「アウトロー」として生きる決意をした主人公。一般人ともホームレスとも違うアウトロー。作中ではそれぞれの階層の人間たちはレイヤーをずらして共生していると説明されていて、そういった背景を知ると、作品内で主人公が属している「2.5次元」というチームの名前のドンピシャ感。

 

 作中主人公が今まで見ていた世界が変わる瞬間をレイヤーという言葉を使って説明している場面

 

ただの雑多な街だと思っていたこの街。だが、汚れや落書きや悪戯だと思っていた全てには、何かしらの機能があった。街全体が、意味を持っている。そのことにようやく気づいて、俺は今まで自分の背後にずっと誰かが立っていたのに、わからなかったような、そんな強烈な恐怖を感じた。今まで見ていた景色の上から、新しい意味合いのレイヤーを重ねられた気分だ。

 世界観が変わる瞬間の驚き、それまでの自分がいかに無知だったかへの恐怖がよく現れている。世界にはまだまだ隠された次元が存在しているし、どれだけ奥深いのか想像もつかない。そこら中に幽霊が闊歩しているのだろう。主人公はそんな多くの幽霊の中のたった一人を見つけたにすぎない。だが、その出会いは不可逆的に彼の人生を変えてしまった。

 だが、世界認識の方法が変わる=主人公がそこで生きられることとはまた別の問題である。そこでどう生きるかを知らないといけない。

 

アウトローとは何か

 主人公がアウトローについて学ぶ章があり、そこでは

 

(※ホームレスの生き方は)「助け合い、だ。広い人間関係の構築による専門技術の分担化。河川敷という場所が一つの共同体であり、河川敷という単位で互いの不足を補いながら生活を続ける」(中略)

「正解です。対してのアウトローは個人の優れた才覚を駆使し、個々に生活を維持します。それが大きな違い、似ている両者の決定的な差異なのです」

 と書かれている。作品内ではホームレスとアウトローは似て非なるものとして扱われている。この説明を読む限りでは、ホームレスは会社員、アウトローは個人事業主という感じになるのだろうか。会社員は基本的に誰でもやれるが、個人事業主はある程度特殊な才能が無いと出来ない。この場合どちらが偉いとか上だとかではなく、どちらも棲んでいるレイヤーが違うのだ。

 

●都市こそがアウトロー達のワンダーランド

 ただ、アウトローの生き方は、人口が密集している都市部だから成立する生き方だと思うし、都市部にしかアウトローはいないのではないか。人口が多い=トラブルが起こる確率が高い分、自分の得意(特異)な能力を振る舞える機会が増える。アウトロー達の主な仕事は日常生活では滅多に起こらない出来事への対処がメインになるからだ。人探しや犯罪者退治など、人口が少ない田舎になるとほとんど無いでしょうと。

 そういった描写(田舎だとマッドマックス的世界観かも)はシリーズを重ねると出てくるのだとは思うし、細かい描写・設定をどんどん積み重ねていくことでシリーズものはより骨太で面白くなると思うので今後も期待。

 

 

●参考文献

 

坂口恭平さんの書いた『ゼロから~』には都市部にはレイヤーをずらしてみると一杯の資源が眠っていると書かれている。だが、それも都市部という芳醇な場所ならではの生存戦略だ。