Childhood's End

映画と本の感想など

十束おとはちゃんに薦めたい小説を選んでみた(2018年2月)

 

 

満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

 

 

 一言?で表すと、フィクションでしか語り得ない形で綴られた、多種多様な ""人の業""についての短編集。古典部シリーズ、小市民シリーズにあった緩さを一切削ぎ落として、とんでもなく煮詰めたら多分こんな風になるんじゃないか。

 

 どの話にも自身の業(惰弱、虚言、愛憎、執着)に操られて、狂ってしまう悲しい人達が出てくる。現実でもこの手の人達は大勢居るのだが、如何せん現実はお話にならないくらい変数が多く、それらが複雑に絡み合っている。だが、小説=フィクションという媒体によって、ストレートに業の形だけが読者に伝わるようになる。そういう意味での「フィクションでしか語り得ない形で綴られた」短編集です。

 

 しかも、この短編集は毎話最後の最後で捻りが入ってくるので本当に一筋縄ではいかない。作者が物語の裏側に巧妙に隠していた怪物に寝首をかかれてしまう。

 

 色々な話があってバラエティ豊かなのだが、強いて一番好きな話を挙げるなら、表題作で最後に収録されている「満願」をば。ネタバレになるので多くは語りませんが、頭の良い女性フェチには堪らない最高の一品です。