Childhood's End

映画と本の感想など

十束おとはちゃんにお薦めしたい小説(2018年4月分

 4月に読んで面白かった小説2作品の感想。とっ散らかっててすいません。

 

 ◯小川哲『ユートロニカのこちら側』

 

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

 おとはすのファンの方がオススメしていたので気になって読んでみたら見事にハマってしまいました。生活の全てをデータとして受け渡す代わりに生活の保証をする都市「アガスティアリゾート」を取り巻く群像劇が展開されている。情報等級を管理する情報銀行(中国における信用スコア)、サーヴァントと言われるAI(この商品を買った人はこれを買っています的なあれ)、BAPと呼ばれる犯罪予測システム(PSYCHO-PASSで言うとシビュラシステム)などなど…SF好きでなくても十分に理解が出来るギミックを巧く組み合わせて、人間の自由意志が希薄になってしまうようなディストピア感を醸成しております。現実の我々が生きている”今”の延長線上に「アガスティアリゾート」があるかもしれないという不安をめちゃくちゃ煽ってきて非常に怖いなと思わせると同時に、大いに想像力を刺激してくれる素晴らしいSF小説です。

 

 作中内では、システムの影響で自由意志を希薄にしていった最終形態を「ユートロニカ」と規定しており、システムが統治する争いの無い優しい世界がそこには顕われるみたいなのですが、その世界って最早人間が不必要なのでは?という素朴な疑問が浮かんできたりもする。ただ、人間の自由意志に対して全幅の信頼を置けるほど、自分や歴史を知らない訳でもない。全てが全て人間の手に委ねられてはまた歴史が繰り返されてしまうのではとう危惧もある。ただ、一つ分かることは自由意志もシステムもどちらも万能ではないということだけ。そもそもシステムですら自由意志の産物なのだから…

 

辻村深月スロウハイツの神様

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

 
スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(下) (講談社文庫)

 

 

 人生を劇的に変える出会いを知っている人にこそ読んで欲しい小説。小説家、脚本家、編集者、クリエイターの卵達が住むアパート「スロウハイツ」での営みが紡がれています。色々は話があるのですが、小説家チヨダ・コーキと脚本家赤羽環の話がめちゃくちゃ泣けました。作者と読者の美しい関係が見事なまでに描写されていて、知らず知らずの内に、互いが互いを支え合って前に進んでいくのってこんなにも素晴らしいことなんだなと。夫婦とか恋人とはまた違った形の関係性なので、これこそフィクションの真髄!!辻村深月ワールド全開の素晴らしい小説。 

 

【余談】

 ちなみに、おとはすが過去のインタビューでどんなアイドルになりたいかという質問に、「一人のオタクの人生を変えれたりとか、誰かの人生の転機を変える熱いアイドルになりたい」と答えていて、まさにこの小説と重なる部分があるなと思ったりして勝手に盛り上がったのも、この小説を推す理由だったりします。