Childhood's End

映画と本の感想など

『イップ・マン 葉問』

イップ・マン 葉問 [DVD]

 

1950年、イップ・マン(ドニー・イェン)は家族を連れて、広東省佛山からイギリスが統治する香港に移住。その後彼は、新聞社の屋上に詠春拳の武館を開く。そんなある日、血気盛んな青年ウォン(ホァン・シャオミン)がやって来て、自分が負けたら弟子入りするとイップに勝負を挑む。(http://www.cinematoday.jp/movie/T0009496より)

 

 

 イップ・マン映画を色々観た中でも一番アガった作品。アクションがその人の思想や立ち位置、役割を表しており、当然イップ・マンがめちゃめちゃ強くて惚れるレベル。本作は2部構成になっていて、とてもロジカルにビジュアルにできている。

 

◯イップ・マン香港で頑張るの巻

 佛山から台湾に移住したイップは武館主連盟?に入る為の試練を受けることになるのだが、試験内容はでかい丸テーブルの上で各武館主と闘うことだった。今回のラスボスであるボクサーとの戦いを予感させており、ある種のリングめいた舞台装置となっている。順調に武館主を倒していくイップだが、ホン師匠との激しい戦いでテーブルは真っ二つになり決着はつかなかった。ホン師匠はイップの実力を認めて武館主となる事を許すが、連盟の運営思想について決裂してしまう。ここでイップはホン師匠がただ金にがめつい強欲なだけの爺だと思ってしまうのだが、実はホン師匠の真意が明かされた時にギャップを出す為の演出になっているのもうまい。 

 武館をつぶされてしまったがイップは生徒を自宅や公園で教えることになる。ある日ホン師匠はボクシング大会に誘う。ここでその理由は明かされないが後々分かってくる。この辺りからホン師匠がめっちゃイイ男だと分かってくる。段々とホン師匠は分割統治の駒に甘んじて、中国武術のために自分を犠牲にしていることが分かってくる。 

◯ホン、お前だったのか。中国武術を守っていたのは…

 ボクシング大会で各武館がリングで演舞をして宣伝をする時間にイップ・マン達も立たせてあげると話すホン師匠。めっちゃ良い人。僕には分かる。その演舞に乱入して中国人をボコボコにするボクシングチャンピオンの ここで負けられないのは自分のメンツではなく、中国武術の誇り(引いては民族の尊厳dignity)のためだと言い切るホン師匠かっこ良すぎる。

 この映画を観て、ボクシング映画の良い所がイップ・マン一作目には無かった「何度でも立ち上がるアニキ」が構造的に生まれ、実際にそのシーンはアガりましたよね。普通の中国武術戦では倒れたらボコボコにされて終わってしまうので、イップ・マンが倒れる訳にはいかないけれどボクシングであれば倒れても相手は手を出せない=イップ・マンを倒しても大丈夫という方程式が生まれる。実際に何度も倒されて、何度も立ち上がる姿はどうあってもカッコイイ。

 しかも、イギリスが用意したボクシングの「ゲームのルール」に乗っかって、途中で蹴りも封じられた上で相手をぶちのめすアニキ。だが、それはアニキだけの力で成し遂げたわけではない!ホン師匠の戦いかたを先に見てイギリス野郎をどう倒すか頭でシミュレートしていたことが活きている。ホン師匠の闘い方を踏襲(師匠の闘いがオーバーラップする)した上で、自分の闘い方を加えて最終的にボコボコにする。

 このボクシング大会での勝利は、丸テーブルでの戦いが完璧に伏線になっていて、一度は決裂してしまったホン師匠と同じテーブル(リング)で闘っている姿がぶち上がるしかなくない。映像で完璧に魅せていて素晴らしい。

 本当に映画としてシンプルで完成度も高くてアガる素晴らしい作品だったので次回作も期待したい。